五福星

第１３回

さて、新年になって、おやじ夫婦は常連のお客さんの家で行われる新年会に招かれました。いつものおやじなら、コバヤシをどこへでも伴って出かけるのですが、今回はまことに残念。そこのお宅には大きな猫がいて、しかも大の犬嫌いなのです。おまけにパグのコバヤシをはるかに上回る大猫で、その顔といったら、どこかの組の親分さんのよう。おやじはそこのお宅の猫の写真は何度も見せられていたので、さすがにコバヤシ同伴をあきらめました。
そんなこんなでおやじとかみさんは、コバヤシを実家に置いたまま出かけてしまいました。で、ほとんど初めて置いてけぼりを食らったコバヤシは、何かさみしいようなせいせいしたような、妙な気分になっています。

コバヤシが家の中をうろうろしていると、おっかさんが着物姿でお粧しをして部屋から出てきました。実は、おやじのおっかさんは琴の師匠なのです。その日はちょうど、邦楽の仲間を集めての新年会がおっかさんの家で開かれることになっていました。

おやじたちが居候している一階はごく普通に住居スペースですが、二階は少々違います。玄関を開けるとすぐ右側に二階へ上がる階段がまっすぐに伸びていて、しかも足音がたたないように絨毯が敷きつめられています。そこを上っていくと、おっかさんの稽古場があって、そこで毎日のように琴を教えたり自分が練習したりしているのです。飲んべえのおとっつぁんが民謡や演歌をがなり立てたとしても影響のないような、そこそこ堅固な作りになっています。まあ、ある意味で、二階の稽古場はおやじの実家にとって聖域のようなものなのです。

しかし、犬のコバヤシにそんな人間の勝手など通用しません。
「コゴノウエサナニアルンダベ？」（通訳：ここの上に何があるんだろう？）
考えてみればただの一度も上ったことがなかったこの家の階段を、おやじがいないおかげで解放感一杯になったコバヤシは、おっかさんの目を盗んで一気に駆け上がりました。幸いなことにコバヤシ程度の足音なら十分に吸音できる絨毯が敷かれていたおかげで、コバヤシはおっかさんに全く気づかれることなく二階に到達しました。そして、これが運命なのでしょうか、コバヤシにとってさらに幸いなことに、二階の稽古場の戸が、少しだけ開いていたのです。なぜ開いていたかといえば、よくある話で、閉めたつもりで閉まっていなかったというだけのことなのですが、にわか冒険家のコバヤシにとっては何よりのことでした。

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