五福星

第１９回

しばらくして、一時大騒ぎになった今年のお弾き初め会も終わり、客人たちが帰る時刻になりました。

「いやいや、先生、今日はごちそうになりまして、誠にありがとうございました」
「オホホホホホホホ･･･、今年はいつになく面白い会でございましたわ」
客人たちは口々に礼を言います。そして、小林先生も、
「大変にごちそうになりまして、ありがとうございました。これに懲りずにまた何かございましたら、ぜひ私もお呼びください。いつでも馳せ参じます」。
どうやら、機嫌はすっかり直っているようでした。

一同が、ぞろぞろと階段を下り始めると、玄関で履物を揃え直していたお弟子さんの一人が声を上げました。
「きゃあ～」
「どうしたの？」
客人を先に降ろして、最後に１階に降りようとしていたおっかさんが、客人をよけながら降りてきました。
「先生、コレ･･･」
「あらっ、あらっ、あらっ！いやだ、これもコバヤシ･･･」
「そうですよね。コバちゃんですよね。他にする人もいなさそうだし･･･」
二人の目線は、あの、コバヤシがグチャグチャに噛んで遊んでいた草履の鼻緒のほうを向いていました。

と、お師匠さんの一人が
「どうなさいましたの？」
と側にやってきました。
「ア～レ～～～～！」
どうやら、その草履はそのお師匠さんの物のようでした。
「先生！申し訳ございません。これも、うちのおバカ犬が･･･」

おっかさんがそのお師匠さんに懸命に謝っているところに小林先生が降りてきました。小林先生は先に降りたはずだったのですが、食物繊維の取りすぎのためか、またお腹が空いてしまったので２階に戻り、コバヤシがぶっちゃいた蒲鉾の包みから蒲鉾を１枚取り出して、密かに食べていたのでした。もちろん、ここで１枚ぐらい抜いたってバレないという邪な思いを抱いてのことです。
空腹の収まった小林先生は、何食わぬ顔で尋ねました。
「おや、どうかなさいましたかな？」
小林先生の問にお弟子さんが答えました。
「あの、誰かがあちらの先生の草履の鼻緒をグチャグチャに噛んでしまっていて･･･」
「ナニ？」
小林先生はお弟子さんを押し退けて、玄関に顔を突き出して散らばっている履物を見回ししました。すると、確かに、鼻緒がグチャグチャに噛まれた草履が１つ、玄関の引き戸のすぐ側に転げていました。
にわかに小林先生がいきり立ちました。
「私ではないっ！断じて、私ではないっ！」
小林先生は一人で勝手に怒りだし、そして、コバヤシに遊び道具に選ばれないで済んだ自分の草履を履くと、
「御免！」
と一言投げ捨てて、玄関の戸を開けっ放しにして帰って行ってしまいました。

これを見て、お弟子さんたちがまたひそひそ･･･。
「トラウマだ～～」
「違うよぉ。条件反射だよぉ～～～」

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