五福星

第２５回

リングディンドン、リングディンディンドン！リングディンドン、リングディンディンドン！
おやじの実家の電話がけたたましく鳴りました。

「はい、もしもし。左様でございます。あ、あら、まあ、お母さん。どうもご無沙汰いたしまして･･･。オホホホホホホ･･････」

おやじのおっかさんが電話に出ると、どうやらそれはかみさんの母親、つまりおやじにとっての姑からの電話のようでした。

「はいはい、どうもどうも。お元気でしたか？え？元気じゃない？気分が猛烈に悪い？はぁ？どうかなさったんですか？え？え？え゛～～～？まさか、うちの息子はバカですけど、いくらなんでもそこまでのバカだとは･･･。ヨホホホホホホホ･･････、ヨホホホホホホホ･･････」

おっかさんが泣きながら電話を切ると、例のごとく早々と晩酌にいそしむおとっつぁんが言いました。

「何や、あのバガ、また何かしたのが？」
「お父さん、あたし、死にたいくらいだわよ。だって、あのバカ、オカマと浮気したんだって。それで、テルコ（ひょっとして初登場？かみさんの名）さんが背に腹替えられなくて、仲の悪いお母さんのとこに飛び込んできたんだって･･･。ヨホホホホホホホ･･････、かわいそうにテルコさん、あんなに喧嘩ばっかりしてたお母さんを頼るしかなかったなんて･･･、そうよねえ、いくらなんだって浮気した男の親に頼れないものねえ～。ヨホホホホホホホ･･････、ヨホホホホホホホ･･････」
「あ゛？何や、おまえ、あのバガのごど怒ってんのが？それとも、嫁のこと同情してんのが？」
「両方に決まってるでしょっ！」
「へっ！女なんて何考えてるんだがな？浮気の一つや二つどうってこどねえべ？亭主が死んだら財産入るのは女房に決まってんだがらな。浮気相手には行かねえんだ。だがら安心して遊ばせておけばいいのや」
「そういう問題じゃないでしょっ！」
「それがどうしたっていうのや？浮気は浮気だべ～。しかも相手が男だったら、何も問題ねえべ。子供出来ねえんだがら、財産分与の問題も起きねえべ？」
「何言ってるの、お父さん。おとなしく聞いてれば、さっきからありもしない財産のことばっかり言って。それにうちのバカ息子には借金はあっても財産はないでしょ。万が一のことがあっても、テルコさんが相続できるのは財産じゃなくて借金だけじゃないのっ！どうしてお父さんはもっとまじめに物事が考えられないのっ！」

なぜかおやじが死んだと仮定して物事の心配をする変な両親ですが、それはさておき、酔っぱらいに怒っても始まらないのを承知で怒るおっかさんの心情は、息子の行動がただただ情けなくて仕方がないのです。

「一体どうしたらいいのかしらねえ。しかもそのオカマ、誰が見ても男だとわかるほど不細工だっていうし･･･。人を外見で判断するものじゃないって教育してきたつもりだったけど、でも、最低限の外見の判断だけは教えておくべきだったわ。ヨホホホホホホホ･･････」
「そりゃそうだ。おまえの教育が悪かったがら、あのバガ、綺麗でねえオカマなんぞと浮気したんだな。そりゃまずいなぁ。どうせ浮気すんなら、綺麗でねえとだめなのにな･･･」

二人の会話が変な方向に行ってしまったところに、また電話が鳴りました。

「もしもし、あら、テルコさん、ごめんねえ～～。迷惑ばっかりかけっぱなしで･･･。え？もう帰りたくない？え？あら、そんなこと言わないで。テルコさんに見捨てられたら、あのバカ、二度と結婚なんかできないのに･･････、あら、でもそれもいいかもね。この際だから、あのバカ懲らしめてやりましょうか。ちょっと、お母さんに替わってもらえない？あら、お母さん、本当にこのたびはなんとお詫び申してよいのやら。でもね、今私思ったんですけど、この際ですから、あいつをやっつけてやるのもいいんじゃないかと･･････。そうなんですよ、ええ、そうです、そうです。それじゃまた、こちらからご連絡いたしますね。バカ息子が何か言ってきても、知らん顔しておりますから。ええ、じゃ、また。オホホホホホホ･･････」

さっきまでの泣き声が笑い声に変わりました。オバサンパワーは不気味です。おやじは一体どうなるんだ？

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