五福星

第２７回

「外に男でも作ったんじゃないの」と言われたおやじは、無性に心配になってきました。なにせおやじは、「おめえなんか、おれが嫁にもらわねがったら、どごさも行げねえんだど」と人権蹂躙的なことを年中かみさんに言っていたのです。自分の暴言がどれほどかみさんの心を傷つけていたかなんて考えてもみませんでした。
「あれや～、おれ、あいづさ悪いごど言ったんだべが～？んだげんと、どう考えでみでもあの女もらう物好きはおれしかいねえべや～。あいづ、いぐら食わせても太んねえべ？つうごどは、食わせ損つうこどでねえが。おれなんか大して食わねくともすぐ太んのにやぁ」
確かにかみさんは痩せの大食いです。その事実を知らない人がかみさんを見たら、何も食べさせられていないんじゃないかと思うほどに痩せ細っています。しかし、かみさんがなかなか太れない原因はおやじにあるのです。その事実をまぬけなおやじが認識しているはずもありません。それに、おやじを亭主に選んだかみさんのほうがよっぽど物好きなのですが、もちろんおやじがその事実に気づくはずもありません。
「チクショ～、あんな食わせ損な女でもいねえよりはいだほうがましなのや～」

苛立った、というよりも、半分以上泣きべそをかいているおやじは、とうとうおっかさんの家にやってきました。

「あら、バカ息子、テルさん見つかったの？」
「何や、おふくろ、その言い方は。見つかってだらこんなとごさわざわざ来るはずねえべ？」
ドアホなおやじはこんな時でも憎まれ口をたたき続けます。
すると、酔っ払いのおとっつぁんが言いました。
「減らず口は親さ借金返してがら言え！」
「あら、お父さん、たまにはいいこと言うじゃないの！オホホホホホホホ…」
息子の嫁が家出したかもしれないというのに母親がこんなに陽気とは、冷静に考えれば、よっぽど嫁が嫌いかあるいは事情を知っているかのどちらかなのですが、口は減らなくとも気分が減り放題のおやじにはとうていそこまで考えが及びません。

その時、電話がけたたましく鳴りました。
リングディンドン、リングディンディンドン、リングディンドン、リングディディンドン！
「はい、もしもし。あら、お母さん。ご無沙汰しております。オホホホホホホホ…。え？うちの息子がお電話したんですか？ええ、あら、そうですか。実はね、今、ここにいるんですよ。ええ、そうなんです。テルさんがいなくなったって、ええ、ええ。あら、そうなんですか。それは大変。それで、警察には連絡したんですか？ええ、はい、はい。あら、あらあら、まあ～。大変だわねえ。ヨホホホホホホホ…」
おっかさんの声が次第にトーンダウンしていきます。おやじは心配でたまらなくなってしまいました。
「おふくろ、その電話貸せっ！」
おやじがおっかさんから受話器を取り上げて出たとたん、電話は切れてしまいました。

「何や～、どいづもこいづも！おふくろ、今の電話、あの婆さんからだべ？テル、婆さんのとごさ行ってんでねえのが？」
おやじはこう言ったとたんに、ようやく感づきました。
「あ、わがった！あの婆ァ、テルんどご、隠してんだな。そうだべ、おふくろ。警察だなんて大げさなごど言ってよぉ。口裏合わせて何かたくらんでるな？そうだべ？」
「何言ってんの、バカ息子！それに、あちらのお母さんに対して婆ァだなんて。もっと口の利き方考えなさい！」
「んだって、婆ァは婆ァだべ？それとも、爺ィだっつうのが？もしほだったら、あの婆さんオカマっつうごどでねえが？」

この時、おやじは全く気づかずに禁句を口にしてしまいました。

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